水の不思議
水は、冷えると氷になります。温めていけば、水蒸気になります。氷には形があり、しっかり手で持つことができます。水は形を持たず、手でつかむことはできません。水蒸気は、空気中にただよっている目には見えないくらい小さな水のつぶです。おふろや火にかけたやかんから出る湯気、空にうかんだ雲、これらもみんな水が形を変えたものです。ふつうの状態で、空気中の水分を目で見ることは難しいですが、こんなふうに形を変えると、目で確かめることができます。こんなにちがうのに、この3つのものは全て“水”なのです。水は温度によって姿を変える、不思議なものだといえそうです。水の不思議を探ってみましょう。
1. 水をミクロの目で見ると!?
水のしずくを1てき落としてみると、しずくはお皿や机に当たってはねて、もっと小さなしずくのつぶにくだけます。
この小さなつぶを、もっともっと小さくしていったら? 水の一番小さなつぶは、残念ながら目で見ることはできません。これを「水の分子」といいます。
氷や水蒸気になったとき、水の分子はどのように変化するのでしょうか。
水の状態が変化するには、温度の他に、周りの空気の圧力が深く関係しています。図に示してある温度は、地上0メートル、1気圧の場合です。富士山の頂上など、高いところでは気圧が低くなるので、氷や水や水蒸気に変化する温度が変わってきます。
氷・水・水蒸気
- 水が氷になっているとき
水は0度になると、氷になります。温度が下がると、分子どうしでくっついて動かなくなります。
- 水が“水”になっているとき
分子はいくつかが集まってグループになったり、そのグループからはなれたりしながら、いろいろな方向へ向かって自由に動いています。
- 水が水蒸気になっているとき
水は100度になると、ふっとうして水蒸気になります。温度が上がると、分子の運動はますます速く激しくなり、グループから完全にはなれて外へ飛び出していきます。
2. 自然の中で、不思議を発見!
水の不思議な性質は、自然の中でも見つけることができます。どのような不思議があるか、探してみましょう。
<ア. 氷山が海にうかんでいる>
氷山は水にうかぶ
少しも不思議だと思わないかもしれませんが、実はとても不思議なことです。ふつうの物質は、液体でいるときよりも、固まって固体になったときのほうが密度(体積あたりの重さ)が大きくなります。ところが水は、氷になると密度が小さくなるのです。
水分子は、氷になるとくっつきあって1つになりますが、1で見たように不思議な形をしているので、どのようにきちんと並んでも、どうしてもすき間がたくさんできてしまうのです。
つまり水のままでいるときのほうが、分子どうしのすき間が小さいことになります。だから、同じ体積で比べると、水より氷のほうが軽くなるというわけです。
飲みものに入れた氷がうかぶのも、氷山が海にうかぶのも、水の密度が氷になると下がるため。でなければ、どのように大きな氷山も、あっという間に海にしずんでしまい、地球から氷山はなくなってしまうでしょう。
<イ. 真夏でも、川や海がお湯にならないのはなぜ?>
真夏に海水浴に行くと、海の水は少しひんやりしています。ところが、砂はまやちゅう車場にとめた車の表面はとても熱くて、さわることもできないほどです。
水は、とても温まりにくく、冷めにくい性質を持っています。
台所で実際に料理しているところを見ると、同じ火にかけてもやかんの水はなかなかふっとうしませんが、天ぷらなべの油はすぐに100度をこえて、天ぷらをあげるのにちょうどよい170度くらいまで上がります。車の材料である鉄は、もっと簡単に熱くなります。だから、夏の太陽の日ざしだけでも、さわれないほど熱くなるのです。
もし水がすぐに温まってしまう物質だったら、川や海はとても熱くなってしまい、多くの生き物がすめない場所になってしまいます。水のおかげで、環境の変化がゆるやかになり、いろいろな生き物が暮らしやすくなっているのです。
水はいつでも近くにあるから、全然不思議なものだと思わなかったな。地球の環境が、生き物にとって暮らしやすいのも、水が役立っているんだね!
【参考文献】
・播磨裕 岡野正義 山崎岳 ほか/共著 『水の総合科学』 三共出版
・平澤猛男/著 『水は永遠の友』 研成社
・石原信次/著 『知っておきたい水のすべて』 インデックス・コミュニケーションズ
・上平恒/著 『水とはなにか』 講談社ブルーバックス
・左巻健男/著 『水と空気の不思議100』 東京書籍
・稲場秀明/著 『氷はなぜ水に浮かぶのか』 丸善
・中川鶴太郎/文 村田道紀/絵 『氷・水・水蒸気』 岩波書店
・ウォルター・ウィック/著 『ひとしずくの水』 あすなろ書房
・『学研の観察・実験シリーズ 空気中の水の変化』 学習研究社
・高橋裕 他/編 『水の百科事典』 丸善 1997
・長谷川三郎 他/編 『岩波理化学辞典5版』 岩波書店