農業で使う水
農業では、作物をつくったりちく産をしたりするときに水を使います。これを農業用水といいます。農業用水は、人びとの食生活を支え、命を支えるという意味で、飲み水と同じように大切です。農業用水がどのように使われ、人びとの役に立っているかを、見ていきましょう。
1. 農業用水の特ちょう
農業用水の使い道
- いな作(=米作り)
- 畑作
- ちく産(=ウシ・ブタ・ニワトリなどを飼って、肉や卵、乳などをとること)
といった、農業生産に使われる水を農業用水といいます。
日本の水総使用量約834億トンに対し農業用水は約549億トンになり65.8パーセントをしめています。世界では水総使用量の約70パーセントを農業用水に利用していますが、かんそう地では90パーセントに達する場合もあります。
農業用水の特ちょうは、自然の中の水をうまく利用していることです。田や畑では、まずそこに降る雨で作物を育て、それでは足りない分を、農業用水の用水路から取っています。
農業用水で、実際に使われる量は作物の葉やくきからじょうはつする約10パーセント〜20パーセントにすぎず、利用した水の約60パーセント〜70パーセントが使用後に川へもどり、残りの約10パーセント〜20パーセントは地下水になって、下流の都市や農地で再利用されることとなります。
2. 農業用水のさまざまな役割
日本における農業用水の始まりは、人びとがいな作を始めた縄文時代の終わりごろです。長い歴史の中で農業用水は、人びとの生活にいろいろと役立てられてきました。農業生産の他に、どのような役割があるでしょうか。
<ア. 消流雪用水として使われる>
地下水、川の水などと共に農業用水も、道路の除雪、屋根の雪の除雪などのために使われます。
<イ. 防火用水として使われる>
火事のとき火を消すために、農業用水が使われることがあります。
<ウ. 生き物のすむ場所を守る>
農業用水路は、フナ、ドジョウ、メダカなど、さまざまな生き物が暮らす場となっています。
<エ. 美しい景色をつくる>
農業用水路をふくめた農村の美しい景色は、見る人にうるおいや安らぎをあたえています。
<オ. 水に親しむ場所をつくる>
農業用水路を利用して、水遊びのできる場所をつくったり、小川の流れる公園をつくったりすることができます。
<カ. 水をたくわえる>
水田は、雨水をためることができます。例えば、千葉県の印旛沼の周りの約70平方キロメートルの水田に水を20センチメートルためると、印旛沼(面積12平方キロメートル、平均水深約1.5メートル)とほぼ同じくらいの水をたくわえることができます。
もっと“わくわく!”水コラム 「三分一湧水」
16世紀、戦国時代の甲斐の国(今の山梨県)で、八ヶ岳の雪どけ水が地下水となってわき出す水をめぐり、下流の3つの村が争い続けていました。豊かにわき出る水は、農業のために大変貴重だったのです。
領主の武田信玄が、争いをおさめるため、わき出してきた水を四角形の池にみちびき、その中に三角形の石を置いて、ちょうど3方向に同じだけ水が流れていると、みんながわかるまで、石の置き場を変えて、わき水を3方向に分かれるようにしました。そして3つの村に平等に水を分配し、問題を解決したと伝わっています。
この言い伝えから、このわき水は「三分一湧水」と呼ばれるようになりました。今も1日約8,500トンの水がわき、農業用水などに利用されています。
三分一湧水
農業用水が無くては、作物もウシもブタも育てることができず、食べ物がつくれなくなってしまう。大切な農業用水は、農業に使われるだけではなく、わたしたちの生活をいろいろな面で支えてくれているんだ。